笙吹きロバの
笙のページ
雅楽に関するHPはたくさんありますので、ここではロバが担当する[笙]だけをとり上げてみました。
ロバは長くこの楽器とつき合っていますが、これ程繊細で、摩訶不思議な楽器は他に無いと思うのです。
そこでこの楽器をこよなく愛するロバが[笙に関わる色々]を述べてみたいと思います。
(最終更新日 2006.9)
◆でんでん太鼓に笙の笛 ねんねんころりよ おころりよ... |
◆漆(うるし)の基礎 |
◆ロバのたわごと |
◆雅楽関連商品(Yahooショッピング、オークション、古本屋) |
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歴史 |
笙という楽器の起源としては中国の南方で発生した南方起源説が有力である。(中国起源説もある) 中国での笙の歴史は古く、古代中国の殷(紀元前 1400〜1122頃)にまで遡る。孔子の編といわれる『詩経』(前771〜403)に笙の事が記されている。 『礼記』には女神 女か(じょか)が笙のリードを作ったと記されている。 漢の時代(前206〜8)に日本で使われているような笙が作られた。漢時代の馬王堆(まおうたい)の墳墓から副葬用の物ながら竿(う)が出土している。 唐の時代に日本(飛鳥、奈良時代)に伝えられた。奈良の正倉院には笙、芋あわせて計6管保管されている。 |
笙の原型 | 笙の原型とおもわれる楽器が現在でも東南アジアに広く分布する。ラオスやタイの「ケーン」、ボルネオの「サンポータン」、中国雲南地方の「蘆笙(ルーシェン)」等。同じような原理で鳴る。 |
笙の分類 | 形の上から分けると 筏(いかだ)型、匏(ふくべ)型に分類される。竹類を筏状に組んだもの。ケーン、サンポータン等。匏(ふくべ ひょうたん等の実)に竹を円状に並べたもの。中国、日本の笙はこれに入る。 |
正倉院の笙 | 東大寺の正倉院には唐から伝来した当時の姿の楽器が三管保管してある。呉竹で作った笙二管、仮斑竹の笙が一管。竹は現在と同じ17本。取り外しが出来る長い吹き口がついている。帯は銀でなく竹で作られている。17本すべてにリードがついていた。現存する伝世品としての楽器としては他の収蔵品の楽器とともに世界最古である。 |
竿(う) | 笙の一回り大きい物を大笙、または竿(う)という。正倉院に三管ある。正倉院のものは長さ90p〜80p程。取り外しが出来る長い吹き口をもつ。 現在の笙より 1オクターブ 低い音が出る。現在の雅楽では使われていない。 |
鳳笙 | 節の整った笙は、鳳凰(ほうおう:中国の想像上の目出度い霊鳥)が羽根を休めている姿ににている事から、笙を、ちょっと気取って「鳳笙(ほうしょう)」 と呼んでいる。 |
中国の笙 | 笙の本家本元の中国にはもちろん笙がある。大きさも様々で、竹管の数も様々。伝統的な笙以外にも、、指穴を押さえるキーの付いたもの、金属管でできた笙等、様々に改良された笙が存在する。演奏法も日本のような単調な吹き方ではなく、色々な吹き方がある。 |
ハーモニカの先祖? | 笙はハーモニカやアコーディオン、リードオルガンの先祖と言う人もいる。同じ金属のフリーリードが使われているからだろう。 |
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頭(かしら)の上の部分は鏡(かがみ)と呼ばれ、それの穴に竹の管が17本差し込んである。 そのうちの15本の竹管の根本に金属製のリードが蜜蝋(みつろう)で取り付けてある。 ▲笙のリード 青いのは青石が塗られているため。真ん中に付いているのは調律用ロウ(おもり)。
指穴を指で塞ぎ、吹き口から息を出し入れすれば音が鳴る。
頭(かしら)は匏(ほう)ともいう。 リードの事を簧(シタ)ともいう。 根継(ねつぎ)は根軸(ねじく)とも呼ばれる。
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▲竹管 上の四角の穴が屏上(びょうじょう) すべての屏上は竹管の内側に開けられている。指穴は下、乙、比を除きすべて外側に開けられている。
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▲ 笙の断面略図
竹管にはそれぞれ名前がつけられてある。 千十下乙工美一八也言七行上几乞毛比 (詳細) 上記の内 「也」と「毛」にはリードが付いていない *「ぼう」の漢字は 「几」のうえに「ノ」 が付いているのですが フォントに有りませんので ここでは 「几」 という字を使います。 |
▲ 頭 頭(かしら)は木で作られており、外側には何重にも漆が塗られている。頭に蒔絵が施されているものもある。 ▲ 鏡の部分(穴の開いているところ) 頭の上の鏡(かがみ)と呼ばれる部分は、古い笙は水牛の角で作られている。現在の笙はベークライトなどの合成樹脂で作られているものが多い。 頭の中にある柱は心木と呼ばれ、頭と鏡を繋いでいる。心木の中に楽器のバランスをとるため鉛が仕込まれているのがある。 「プラ管」と呼ばれる、頭、根継ぎの部分がプラスチック(竹管は本物)で出来ている安価な笙もある。 |
▲ 帯 帯(おび)は竹管がばらけないように束ねている金属の輪。単なる輪でなく竹をあしらった彫刻がされており、銀や真鍮で作られているものが多い。
▲帯と逆輪 帯が切り口に直接当たる三本の竹管(千、也、言)には竹管上部を保護する逆輪(さかわ)という金属(多くは銀や真鍮)のキャップが付けられている。
也、言の竹管には飾りの屏上が表側に付いており金属製(多くは銀や真鍮)の金具がはめ込められている。 (也はリードが付いていない。言の正式の屏上は裏側に開けられている。) |
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竹管の節の付き方
▲本節 ▲三節 |
竹管の材料
▲煤竹(すすだけ) 竹管は煤竹といって茅葺き(かやぶき)屋根で長い年月煙でいぶされた竹が最もよい材料とされる。しかし数が多くないため、最近は白竹(しらたけ 煤がかかってないもの)の笙が多い。 それ以外にも煮竹(にだけ:お歯黒等で黒く色づけされた竹、古い楽器に多い)や、人工煤竹(煤で短時間いぶした竹)、元々黒い竹で作られた楽器など色々ある。 |
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笙の音色
イラストをクリックしてください
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笙の指穴の押さえかた |
笙の音域 |
笙の譜面
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笙の吹きかた 笙は複数の指穴を押さえることによって一度に複数の音を出すことができる。普通の楽曲では和音を4拍ないし2拍、息を出し入れして音を出す。 和音を鳴らすことを合竹(あいたけ、がっちく)といい、一つづつ音を出すのを単竹(たんちく)という。 「音取」 「調子」では合竹、単竹を組み合わせ曲を奏でる。 左の越殿楽では「几」「一」「乙」・・・等は「几」(ぼう)の合竹、「一」(いち)の合竹、「乙」(おつ)の合竹・・・・、一文字が4拍で、「几」を4拍吹いて、「一」を4拍吸って、「乙」を4拍吹いて・・・と息を交互に出し入れして和音をならし続ける。 笙は息を吐いても吸っても音が出るので、「息継ぎ」と言う概念はない。呼吸しながら音をだしているので音がとぎれない。 笙の譜面は「曲のコード表」と考えたら分かりやすいでしょう。 |
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なぜ鳴るのか あの不思議な音色はどこからくるのでしょうか?
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▼ 笙のリード、共鳴管断面図
▲ コの字型の上に付いているのは調律用ロウ(おもり)。
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音の出る仕組み |
指穴を塞ぎ、吹き口から息を出し入れする。 リードの持つ固有振動数と、屏上(びょうじょう)までの竹管の長さがうまく合うと、管の中の空気とリードが共振(共鳴)現象を起こし音が出る。指穴はこの共振関係をあらかじめ崩しており、指穴を押さえない竹管は音が鳴らない。穴を塞ぐことによって共振関係が成立して音が出るようになる。
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通常の管楽器と違う点
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通常の管楽器では指穴が音の高低を決めるのだが、笙の指穴は原理的に見ても全く異なる。 笙はフリー・リード楽器であり同時に管楽器でもあるという興味深い性格を持っている。すなわち発音機構からみると笙のリードの発振は管の気柱の共振を必要といている。この点では管楽器といえる。・・・・しかし管の共振周波数は、発生音の周波数と規則的な対応関係にない。発生音の周波数を決定する第一の要素はリードにあると考えられ、この点は、フリー・リード楽器の性格である。『平凡社 音楽大辞典』
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ハーモニカ、 アコーデオンと違う点 |
ハーモニカも金属製のリードが付いており、息を出し入れすると音が出る。 笙と違うのはハーモニカは息を吸って鳴るリードと、吹いて鳴るリードとに分かれているが、笙は同じリードで吸っても吐いても音が出る。 これはリードの造りが違うからである。笙のリードとハーモニカのリードの構造の違いは土台となる金属より振動部分が上下に出ているか否かである。(イラスト参照) 笙のリードでも空鳴り(指穴を押さえていないのに音が出る状態)の時はハーモニカのリードと同じく振動する部分が内外どちらかに飛び出している。 笙には共鳴管がある。それに穴が空けてあり、その穴を塞いだものだけが音が出る様に作られている。ハーモニカ、アコーデオン等では 目的のリードだけに空気を送り振動させて音を出す。笙ではすべてのリードに息の圧力がかかっているが、指穴を押さえ共振関係が成立したリードのみが振動して音がでる。 アコーデオン にもハーモニカと同じようなリードが使われている。笙と同じく、一つの音が空気の往来で鳴るが、実は一つの音に対して、行く空気で鳴るリード、来る空気で鳴るリードと2枚のリードが使われている。
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笙にもっとも近い楽器
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パイプオルガンにはフルー管(エアーリード リコーダー等)とリード管(フリーリード ハーモニカ等)の2種類のパイプがあり、このうちのリード管は笙と全く同じ原理で音を出していると考えられる。参考 | ||
笙リードの材質は青銅である (銅とすずの合金 ブロンズ)。 ハーモニカでは黄銅(真鍮ともいう 銅、亜鉛の合金)が使われている。 笙のリードに使われるような青銅を特別に 響銅(さはり)とも呼ばれている。一口に青銅といっても銅、錫以外の混ぜものによって色々の種類があり、銅と錫の割合、その他の混ざりもの、鋳造法など、又リードの造りによって音色等は変わってくる。
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笙が鳴る原理を「気柱の共鳴」で説明できないだろうか? ▲竹管の中に出来る定常波のイメージ図(指穴を塞いでいるものとする)。
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なぜ暖めるのか 笙という楽器、吹奏前に暖める必要がある。こんな楽器ほかにないでしょうね?
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笙は吹き口から直接息を出し入れして音を出す。その息が凝集(結露)してリードに水滴が付く(音が狂う)。
そのうちリードの切りみぞに水が回り込んで膜ができ、音が出なくなる。この現象は気温が低くなるとてきめんに現れる。 そこで笙の頭(かしら)部分に熱をもたせておけば この息の凝集が防げる。またよく暖めてから調律されているので、暖めないと正確な音が出ないのも理由のひとつ。暖めることを[焙(ほう)じる]ともいう。 根継ぎにリードを取り付けるロウ、又調律のためにリードに付けられたロウは気温が低いと粘り気が少なくなり、リードとロウとの粘着力が落ちる(調律用のロウが飛んだり、根継ぎからリードが外れたりしやすい)。それを防ぐため。 吹き終わってから再度よく暖め乾燥させておく必要がある。 暖める目安は、頭の上面(鏡)の部分をさわって人肌程度のぬくみがあればよい。しかし、あまり温度が高すぎると中のロウが溶け出したり、頭の漆がひび割れを起こしたり、剥げたりするので注意が必要。頭をさわって熱いと感じるようでは駄目である。関連項目
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なぜリードに青石が塗られているのか 笙のリードには青石が塗られている。これがしっかり塗られていなければ息もれがして吹きづらい。
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青石(しょうせき)=孔雀石(くじゃくいし 学名:マラカイト)
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青石を塗る第1の理由はリードの切りみぞの隙間を埋めるため。 これがしっかり塗られていないと息漏れが激しくして、吹いていてしんどい。長期に渡って楽器を使用していると、この青石が飛んでしまい、息漏れが激しくなる。こうなると青石の塗り替えが必要となる。この作業を洗い替えという。 第2の理由は水分の蒸散を促進さすためである。 青石が凝集した水分を吸い込み蒸散を助ける。青石を塗ったリードを長い間おいておくと水を吸わなくなる。リード面に水を垂らし水滴が青石に染み込んでいかないようだったら洗い替え時かも。
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青石が塗られている第1の理由が息漏れ防止と書いたが、そうしたらハーモニカには息漏れがないのかというとそうではない。笙の演奏法に関係がある。
笙の演奏方法は同じ音(和音)を長く鳴らす。雅楽の拍子は一拍一拍が長いので、音を鳴らし続けるには多量の息がいる。 もし笙がハーモニカのようにメロディーを奏するならば、吐いても吸うても音の出る楽器なのだから、青石を塗る必要は無いと思う。 |
このコーナーは笙吹きロバが 笙懲りもなく書きました。 ご指摘、ご感想等はメール下さい。
笙の不思議を解明?するというロバも実のところ分からない事だらけ。
新情報、新説等がありましたらこのページで公表させていただきたいと思います。