漆(うるし)の基礎

 

漆と聞くと漆芸家や漆専門の塗師のみが扱う特殊な塗料と思いがちです。

でも 「かぶれ」 と 「漆の乾燥」  さえ頭に入れておけば、そんなに特別なものではないと 素人のロバは思っています。

(本当は これ程奥の深い 又 扱いづらい塗料はないと思っていますが...)

又 漆という塗料は高価なものと思いがちですが、少量ですがチューブに入ったものなら 千円程度からあります。

ここでは、笙の竹管のひび割れ等を修理する程度の、あまり高度な技術を要しない漆塗りについて記したいと思います。

2009.8

うるし【漆】  とは
漆の成分
漆の特質
漆の特徴
漆の欠点
漆の種類
竹管の修理法

   

笙のページ      
ロバの雑記帳

注意:かぶれやすい人は重装備で作業を!  ただものではないぞ この塗料!!

うるし【漆】  とは
ウルシ科の落葉高木。中央アジア高原原産。高さ三メートル以上。樹皮は灰白色。葉は三〜九対の小葉をもつ奇数羽状複葉。かぶれやすい。六月頃、葉腋に黄緑色の小花を多数総状に開く。雌雄異株。果実はゆがんだ扁平の核果で、一○月頃成熟して黄褐色となる。果を乾かした後しぼって蝋を採り、樹皮を傷つけて生漆(キウルシ)を採る。中国・朝鮮・日本で古くから広く栽培され、四木三草の一。「広辞苑」

*中央アジア高原原産には 異説あり。

日本の「うるし」と名が付く「うるし科」の植物、「ウルシノキ、ヤマウルシ、ハゼノキ、ヌルデ」があるが樹液を「漆」として利用できるのは「ウルシノキ」。「やまうるし」もかっては利用されていたという。

地方によっては 漆、ヤマウルシ、ヌルデ等の触れるとかぶれる「うるし科」の樹木をすべて「うるしの木」といっているところもある。

外国の「うるし」で「漆」として利用できるのはアンナンウルシ、ビルマウルシ、カンボジアウルシ等がある。
日本産の漆が最も上等とされているが、同じ日本産でも産地によって違う、又同じ「うるしの木」でも原液を採取する原木の部位、季節によっても違う。
日本では6月中旬から10月下旬にかけて採取、盛夏に採れたものが最も上質。

漆の木の幹に傷をつけ、分泌してくる樹液を採取する。これを精製する。 

現在、日本国内で使用されている漆は90%以上が中国産と言われます。

 参考: 
生漆 (日本産・生正味) 50g  約5千円、 生漆(中国産) 50g  約千円

日本産漆  岩手県、京都府(丹波地方)が有名です。

 

 

漆の成分 漆液は、ウルシオール、ゴム質、含窒素物、水分等から構成される。

漆の主成分はウルシオールとラッカーゼで、ウルシオールが多いほど質の良い漆。ウルシオールを含んでいる割合は日本産の漆で約66%、中国産で61〜63%、ベトナム産で約34%。

うるしの木は、日本、韓国、中国をはじめ東南アジアに広く分布している。品質的には日本の漆が最も優れている

漆の精製 採取した漆液から、木屑や塵挨、水分を調節し塗料としてふさわしい状態にする。

 

 

漆の特質

 

皮膚に付くと かぶれる。(全く平気な人もいる)

うるしかぶれは強烈なかゆみを伴う。水泡が出来たり赤く腫れる。しかしばい菌が入って化膿しなければ跡形無く綺麗に直る。免疫が出来ると言われる。

「漆が乾く」ことと 「ペンキが乾く」 ことは根本的に違う。 ペンキや洗濯物は中の水分や溶剤が蒸発して「乾く」が、漆は主成分のウルシオールと酸化酵素ラッカーゼとの反応で塗膜を作る。漆の乾燥とは、酵素が高分子を作るということ。

漆が乾くためには適当な温度と湿度が必要。  温度で25度前後、湿度80%前後。(ただし、空気にふれる環境だと適温適湿以外であっても徐々に固まってくる)

洗濯物やペンキが乾くには湿度が低い方がいいが、漆が乾くには湿度がある程度高い方がいい。

 

 

漆の特徴

 

 

漆塗膜は対薬品性がある。

 

漆は一旦固まると、酸、アルカリ、アルコール等の薬品類や、高熱にも耐える強靭な塗膜を作る。
 

接着力が大きい。

 

普通の塗料は接着剤として使えないが、漆は極めて大きい接着力があるので古来より接着剤として使われている。

古来よりの接着剤としてコールタール、膠(にかわ)、漆、でんぷん糊等がある。

 

乾燥の調整がきく。

 

漆は酸化酵素ラッカーゼの働きによって乾燥するので、温度、湿度を調節することによって、乾燥時間を調節できる。
 

塗り重ね、研ぎ出しができる。

 

何回も塗り重ねができ、塗ったものを研出しができる。
 

テレピン油、片脳油(へんのうゆ)、石油等の溶剤に溶ける。

  

テレピン油、へんのう油等は薄め液として使われる。石油等は洗浄液として使われる。
 

水となじむ

 

油性ペンキには見られない特徴。生漆にはもともと多くの水分が含まれている。水を混ぜることによって乾燥をはやめる事も出来る。(乾燥剤として水が使われることもある)。
耐久性がいい 漆は塗料として又接着剤として古来より使用されてきた。法隆寺、東大寺正倉院等の宝物が千数百年もの長きにわたり未だに堅牢性を保っていることは漆の驚異的な耐久性を物語っている。恐るべき塗料といえよう。同じく接着剤として用いられる膠(にかわ)の耐久性(百年ほど?)を大きく上回る。
 

鉄分に反応する

 

鉄分があると黒く変色する。黒漆はこれを利用したもの。

漆の主成分はウルシオールが鉄分と反応して黒くなる。

 

 

漆の欠点

 

 

皮膚に付くとかぶれる。 

 

かぶれない人もいるが、他の家族の者がかぶれたりする事もあるので、取り扱いが大変。
 

作業後の後始末が大変。

 

塗装した後の刷毛等の始末が大変。使用後の刷毛等はよく洗浄しておかないと使えなくなる。
塗料としてはペンキ等に比べ大変高価

 

塗料としてはペンキ等に比べ大変高価である。また人毛で作られた漆刷毛なども高価である。

 

 

乾燥が非常に遅い。

 

ペンキ等に比べると 乾燥が非常に遅い。又乾燥するのに設備がいる。 
 

綺麗に塗るには漉紙(こしがみ)で漉して使用。埃の立たない清浄な設備が必要。

 

漆には不純物が混じっているため、綺麗に塗るには漉紙(こしがみ)で漉して使用。

埃の立たない清浄な設備が必要など面倒。

 

大規模な塗装には不向き。

 

漆が高価である点、また屋外塗装には不向きなため。
 

紫外線に弱い。

 

さすがの漆も紫外線に弱い。屋外塗装には不向き。

黒漆を長い間日光にさらすと茶色くくすんでくる。また表面が荒れてくる。

  

▲ 金粉

 

 

漆の種類  大きく分けて3つある (漆の名前は地方によって色々な呼び名があります)


生漆(きうるし)

漆の木から採集した原液からゴミ等を取り除いた無精製の漆。

水分を多く含み乾燥が早い。

クリーム色をして発酵臭がする。

乾けば薄い褐色の透明皮膜が出来る。 

 

木地にすり込んで使ったり、砥の粉等を混ぜ下地を作る。(拭き漆、艶付けに使う。)

一番よく使われる漆。 

・瀬〆漆(せじめうるし)   低価格な下地用の漆。 チューブに入ったものなら千円程度から。

・ 生正味漆(きじょうみうるし)  日本産の漆で作られる最も上質な生漆で、仕上げ用の拭き漆等として使われる。

等がある。

 

透漆(すきうるし)

生漆に含まれる水分を熱を加えて蒸発させた飴色の半透明な漆。

乾けば薄い褐色の透明皮膜が出来る。

*現在全く透明な漆なんてありません。

素地の見える透明塗り、顔料を混ぜ彩漆を作ったり、金箔等の下地等に使う。

・梨子地漆(なしじうるし) 梨子地塗りに用いられる。少し黄色味がかった色をしていて、下の金粉がきれいに見える。

・上朱合漆(じょうしゅあいうるし) 仕上げの艶付け、朱色漆を作るときに用いられる。

・春慶漆(しゅんけいうるし) 透漆の中では最も透明度が高く光沢に優れる。春慶塗に使われる。

等がある。

油分を加えてある漆は光沢が有る。添加油として荏油、桐油、亜麻仁油などの乾性植物油が混ぜられている。

 

黒漆(くろうるし)

鉄分を加え真っ黒に化学変化させた漆。

乾けば真っ黒な皮膜を作る。

 

・本黒漆(ほんくろうるし)  油分が有り。有艶で仕上げ用の漆。

・黒呂色漆(くろろいろうるし) 油分無し。半艶、研ぎ出し用の漆。


等がある。

油分を加えてある漆は光沢が有る。

その他

 

漆に顔料を混ぜて作られた彩漆(いろうるし)、絵漆、箔下漆等、用途に応じて色々調合された漆がある。

▲顔料

 

接着剤や充填剤としての漆

漆に顔料以外の物を混ぜ接着剤、充填剤(パテ)として使用

 

漆をそのまま接着剤としても利用できるが、普通は小麦粉や砥の粉等を混ぜ、パテ状にして使われる。 

  ・小麦粉+生漆 =麦漆(むぎうるし)。  接着剤、充填剤(パテ)として使用。   固まった漆は木質

  ・砥の粉や地の子 + 生漆 =錆漆(さびうるし)。  下地漆や充填剤として。  固まった漆は石質

  ・こくそ綿や木の粉に漆を混ぜ、木材の穴や窪地の穴埋めに用いる。 この作業を「こくそがい」 という。     

 

 

 

塗りの知識

漆もペンキみたいにそのまま材料に塗っても塗料としての役割は果たすが、数種類の塗り方がある。

 

下地を作らず材料に透漆等を塗り重ねていく。

(ニスのような使い方)

 

木地の年輪等をわざと見えるように塗る。飛騨春慶塗り等。
 

摺漆(すりうるし)。

 

生漆等を布に付け材料を拭く。下の素材がよく見える。和竿作りには欠かせない技法。拭(ふ)き漆ともいう。
 

下地を作って、その上に仕上げ用の漆を塗る。

 

最も一般的な技法。

 

 

下地の種類

下地によって塗りの丈夫さが決まると言っていいほど重要(建物でいうと基礎部分)

 

本堅地(ほんかたじ)

生漆に砥の粉や地の粉を混ぜたもので下地を作る。最も堅牢な技法。輪島塗り等。

渋下地(しぶしたじ) 柿渋に炭粉等を混ぜたもので下地を作る。安価な割りに本堅地に負けない程の下地ができる。川連、越前、紀州漆器等で見られる技法
膠(にかわ)下地 膠に砥の粉等を混ぜたものを下地に使う。安価だが弱い。粗悪な下地。まがい下地と呼ぶ人も。
 

仕上げの技法

表面の塗り方、仕上げ方。

 

呂色(ろいろ)仕上げ

 

油分を加えない透漆や黒漆で上塗りし、表面を磨き光沢を出す技法。呂色磨きとも言う。手間がかかるが上等な技法。 
 

塗り立て仕上げ

 

油分を含む漆を塗り、それで仕上げとする。研ぎ出しをしない。花塗りともいう。油分を含むので漆に光沢がある。
 

漆の乾き方

 

 

温度25度、湿度80%前後の環境で、約1日で表面は硬化。手で触れても大丈夫となる。しかし、中はまだ乾燥していない。下地に塗られた漆は完全に乾燥・硬化するにはその厚さにもよるが半年はかかると言われる。

薄く何層にも塗る方がいい。

上記以外の温度・湿度環境でも空気に触れると表面は徐々に固まってくる。

高温で金属の焼き付け塗料としても用いられる。日本刀等。

 

 

 

蒔絵(まきえ)について   笙の頭に施されている蒔絵の技法について

 

 蒔絵の基本

@ 3層のうち 下が 木地、中が 下地 、上の黒い部分を 上塗りとする。

A 金粉を蒔きたい部分に漆を塗る。  

B 金粉を蒔く。

C その拡大図

D 金粉がばらけないように漆で固定する。粉固めという。

以上が 一番簡単な技法 「平蒔絵」 の仕組み。

高蒔絵」 といって こんもりと 高くなった部分に 同じやり方で 蒔絵をする技法もある。 こんもりとするには 漆や炭の粉で高く盛り上げる。

その他 研ぎ出し技法が加わる 「肉合研出蒔絵」(ししあいとぎだしまきえ)という 高度な蒔絵技法がある。

普通 笙の頭の蒔絵は 平蒔絵 高蒔絵の混在した技法が用いられている。

蒔絵とは言わないが、梨子地塗り(なしじぬり) といって 金粉の代わりに平たくした金の細かいのを敷き詰め、上から漆をぬった技法もある。

螺鈿(らでん) といって 貝殻の内側の虹色に光る部分を薄く切って漆で張り付ける技法もある。

 

 

 

 

 

 

かぶれる人は重装備で

 

 

少しでも皮膚に着けばすぐに拭き取る。拭き取り液はエチルアルコール(エタノール)がいい。すぐ手の届くところにティッシュペーパー、アルコールを置いておく。

手や瞼(まぶた)にクリームを塗り、ゴム手袋をし、長袖・長ズボン。

下地漆の研ぎ出した “粉” でもかぶれるから注意。

免疫ができるといわれているから、本格的に漆をやるなら “かぶれる” 事も重要かも???  個人差があり漆芸家でもかぶれる人がいる。

  (強烈な痒みで漆の偉大さを知る)

 

 

日本を探す】縄文(3)神聖視された漆の赤

その皿は、太古の鮮やかな赤い色をとどめていた。

 青森県の三内丸山(さんないまるやま)遺跡からは、縄文時代の人々の生活ぶりをしのばせるさまざまな生活や祭祀(さいし)に使われたとみられる道具が見つかっている。なかでも印象的なのが漆(うるし)製品だ。

 漆器の技術については、これまではウルシノキとともに大陸から伝えられたという説が有力だった。しかし、9000年前の北海道の縄文遺跡から漆器が発見され、さらには日本各地の縄文遺跡から下地処理や重ね塗りなど技術的にも優れた漆製品が次々と発見されたことから、“渡来説”に疑問も出始めた。代わりに浮上してきたのは、この伝統技術が、縄文の森からもたらされ、それが現代まで途切れることなく受け継がれてきた−という説である。

 青森県三内丸山遺跡対策室の岡田康博室長は「日本にも原料をとるウルシノキが自生していて、中国大陸と同時代、日本で独自に漆技術が発生したという説も最近では有力になってきた」と話す。

 赤い色は、単に漆に顔料を混ぜるだけでは出ない。漆の樹液を精製する技術が必要で、木工技術も組み合わせた総合技術といえる。三内丸山遺跡では顔料や漆の樹液が固まったものが発見されており、ここで漆製品が作られていたことは間違いないとみられる。

・・・・

12月20日8時0分配信 産経新聞より

 

 

参考文献
うるしと塗り読本  (日本精漆工業協同組合)、漆芸入門 うるし工芸の美 (光芸出版)

シリーズ「日本の伝統工芸」第2巻  ぬりもの <輪島塗>  (ビブリオ出版) 、その他 漆関連のHP 等 

 

 

割れた竹管(側面)の修理法

 

笙は竹管にヒビが少しでも(目に見えないヒビでも)入っていると不思議と音が出なくなる。(厳密に言えば 屏上より 下側の部分)

よく蜜蝋だけで応急修理されている楽器を見かけるが やはり 漆で修理するのが一番いいに決まっている。

色々方法が有ると思いますので参考程度に。

 

用意する物

 

瀬〆漆等の生漆。 下地用の漆でよい。 乾くと茶褐色になる。
砥(と)の粉  
小麦粉 小麦粉を少し混ぜると粘着性が増す。
薄い和紙 幅5oほどで割れ目の 長さ以上にの 短冊に切っておく。 
ヘラ  
漆を練り合わす容器(定盤) ガラスの板でよい
顔料 竹の色に合わせて使用。 彩漆でもよい。 煤竹には弁柄(べんがら)がよく用いられている。 
漆風呂  
サンドペーパー、耐水ペーパー  

 

割れている(と思われる)竹の表面をサンドペーパーで磨く。 もしロウで応急修理されているのがあれば、ロウを丁寧にとる(竹の地肌がみえるまで)
砥の粉、小麦粉を水で練り、それに漆を練り合わす。 砥の子:小麦粉:漆=10:3:4〜6   
漆塗り、紙着せ(布着せ) 竹の側面に漆を塗り、その上に細長く切った 薄い和紙を載せ素地に密着、和紙と漆となじませる

その上から再度 漆を薄く塗る(和紙が完全に隠れるまで)

乾燥 漆風呂に入れて乾燥
仕上げ ナイフではみ出した 漆を取る、 ペーパーで磨く。下の和紙を削らないように。  
   

 

 

簡易うるし室(風呂)(うるしむろ ふろ)の作り方

 

発砲スチールのリンゴ箱を利用して

箱の底に濡れたタオルを敷く。 気温が低ければヒーター(小さい電気アンカ等)をいれ 20度程に保つ。

その中で乾燥さす。  ( 温度25℃ 程、 湿度 80% 程 )

温度は漆のサイトによっては 15度〜25度、25度前後といろいろある。 あまり高温、高湿では漆が変色するので注意が必要。

 

 

注意

 

漆はなるべく薄く塗ること。分厚く塗ると表面だけが乾燥して完全乾燥に長時間かかる。又表面に皺が入ったりする。
補修した箇所が厚いと  竹を頭に刺したときうまく刺さらなかったり、 帯がしまらなくなったりする。
漆乾燥中の温度、湿度に注意。 温度湿度が高すぎると竹の別の箇所にヒビが入ることもあるので注意。
竹の表面の割れは 仕上げをしっかりとして、拭き漆をすると光沢が出て見栄えもよくなる。竹の色に合わすことが大切。

頭の修理(塗り替え等)となると高度な塗装技術が必要となる。 

 

ロバは最近 漆にはまっています お陰であっちこっち かゆいかゆい !!

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