「しょうの笛」は「笙の笛」?

 

「ねんねんころりよ おころりよ...里のみやげに何もろた でんでん太鼓にしょうの笛...」

と子守歌に歌われているしょうの笛。 はたしてこの「しょうの笛」は 雅楽で使われている あの「笙」なのでしょうか?。

里のみやげにもらえる程 笙は安い楽器ではないのですが...

      「雅楽観賞(押田良久著 東京文憲堂刊)」には 「しょうの笛」は雅楽器の笙となっていますが、

ある方から「笙の笛」は「簫の笛」で、拝簫(はいしょう)との説もあり との情報を得ました。 

そこで笙吹きロバが調べた笙の笛コーナ... (まだまだ不完全ですが...)

 

笙のページ ロバの雑記帳

(最終更新日2002.6)


 

「坊やはよい子だ」


ねんねんころりよ おころりよ
坊やはよい子だ ねんねしな
坊やのお守は どこへ行た
あの山越えて 里へ行た
里の土産に なにもろた
でんでん太鼓に 
しょうの笛
起き上がり小法師に 振り鼓
たたいてやるから ねんねしな

 

ずばり 「しょうの笛」 に言及している本を見つけました。

 

[子守と子守歌]  その民族・音楽  著者:右田伊佐雄  発行:東方出版(株)

以下 は本文の抜粋です。


気ままな歌詞・メ口デイ
『坊やはよい子だ』は全国都道府県のほとんどすべての地域で共通にうたわれてきた、いわゆる全国子守歌(national lullaby)である。ただし各地方・地域で、歌詞も旋律もかなり自由にうたっている。.......


「しょうの笛」とは
「でんでん太鼓にしょうの笛」とうたっている太鼓や笛とは、いったいどんな品物であろうか。まず、でんでん太鼓であるが、これは扁平の小さな太鼓(両面を紙張り)の左右の縁に糸で大豆や小石などの玉をくくりつけたもので、別に取りつけた棒の柄を、手首を振るわせて小刻みに旋回させることによって、玉が鼓面を打つようになっており、豆太鼓ともいう。.......
 でんでん太鼓を二面、縦に重ね合わせたものを「振り鼓」というが、人によってはこれをもでんでん太鼓と呼んでいて紛らわしい。

 一方しょうの笛であるが、一般に「笙の笛」と書き慣らわされてきた。古い記録では、一八二○(文政三)年頃に江戸で編纂された
行智の『童謡集』に

    ねェゝんねんねんねこよ。ねんねのおもりはどこいたァ。やまをこえてさといて。さとの御みやになにもろた。でん/\太鼓 に笙のふえ。おきあがりこぽしにふりつゞみ。ねゑん/\。ねんころり

と書かれ、また天保(一八三○年代)頃に尾張で記された『朝岡露竹斎先生手録子もり歌手まり歌』でも

 ねん/\よころ/\よ、ねんねがもりはどこいた、あの山越えて里へいた、里のみやげに何もろふた、でん/\太鼓に笙の笛、

と書かれている。以来、歌詞のこの個所は「笙の笛」の字を当てることが当然として、誰も疑いをはさまなくなった。

 笙の笛という限りは、誰しも雅楽の笙を頭に置く。ご承知のことと思うが、「笙篳篥」と合わせ呼ばれる笙は、匏の上に長短十七本の竹の管を立てつ形状で、両手のひらで匏を包むように保持し、吹口から息を吹いたり吸ったりして音を出す。「そうの笛」とも称している。『枕草子』第四十三段に、
 湾政の君のさうの琴、行成の笛、経房少将のさうのふえなど、いとおもしろう、一わたり管絃(あそ)びて、
という一節があるが、...これに対して後者の「さうのふえ」が笙である。「さう」はソウと発言する。
 子守歌でうたっている「しょうの笛」に「笙の笛」の字を当てるなら、どうしても雅楽の笙のような玩具笛ということになってしまう。零〜一歳児用の玩具に、笙というのは果たしてふさわしいであろうか。

実は竹の一本笛らしい
江戸後期の一八三○(文政一三)年の序文がついた百科解説書『嬉遊笑覧』(喜多村信節(のぶよ)著)の巻六下「翫弄(がんろう)」に、笙の笛について次の解説が出ている。

○伊勢みやげの笛 「諸艶大鑑」に伊勢みやげの笛を吹て門に遊
 びし云々、貞享四年の衣服ひな人形をみるに、いせ土産の模様あ
 り、笛は小さき笙の笛なり「永代蔵」に伊勢のみやげをいふ処、
 笙の笛貝*子して世を渡る海の若和布の数しらずなどいへり 
   (* 手へんに夕の文字 ロバ一郎)

 これだけではどんな形状、音色の笛であったかが明らかでないが、笙の笛が伊勢参宮のみやげ品として全国的に人気があり、織物の柄になるほどであったことがうかがい知れる。
 伊勢参宮みやげの笛といえば、著者も手もとに所有する。篠竹の一本笛で、音色は”ピー”か”ヒュー”の表現が近いだろう。音は裏面に斜めに切り込んだ一つ穴から出る。表面には一列、六個の穴が開いてはいるが、音程はすこぶる悪く、子供の玩具にしてもお粗末なできである。穴の列の上方に「伊勢神宮遷宮記念」「いせみやげ二見浦」と印刷してあり、一九七三(昭和四八)年の遷宮の年に二見浦のみやげ物店で売り出されたことが明瞭である。近年の作であり、これが果たして昔の伊勢みやげの笛、つまり笙の笛と同じ物か、近似する物か、最初は判断がつかなかった。
 思い余って郷土玩具研究の権威者に手紙でご意見を問うたところ、山田徳兵衛氏は笙の笛の実物を所有しておられず、古いものはおそらく誰も持っていないだろうといわれ、「音はただピーピーと鳴るだけで、或いは穴が一つか二つあって、多少の高低音が出る程度の、いわばごく安物の笛と思います」とのこと。やはり竹の一本笛と推定しておられる。斎藤良輔氏は「私にはお教えするほどの自信はございません。悪しからず」といわれながら、児童用品研究会著『日本玩具集』(一九一七年、山田真三郎発行)を紹介して下さった。これはドイツのドレスデンで万国衛生博覧会が一九一○年に開催されたときに、児童用品研究会が出陳した日本の玩具の解説目録。この中に「笙の笛」と名づけられたものがある、という。....
(十八)笙の笛
笙は楽器として古来我国に用ゐられしものにて、支那より伝来せしものなり、之を模して玩具と為せしは少くとも足利時代の末葉以前にありしと認めらる。其頃より笙の形式を損して横笛の形と為り、しかも之を笙の笛と称せり、本器の如き即ち之なり、二三歳以上の男児に多く用ひらる。....
 この図の「笙の笛」と、わたしが所有する伊勢みやげの笛を比較すると、前者には息を吹き入れる部分の突起があるが、後者にはない。前者の指穴の数はちょうど向こう側に隠れた格好でわからないが、裏面に斜めの切り込み穴が一つある横一本笛であることに相異はない。この符合から考えると、一九一○年に「笙の笛」と呼ぱれてドレスデンの博覧会に出品された笛は、やはり当時の古老らの記憶にもとづいた、江戸時代の笙の笛に従ったものであり、わたしの所有物も古い伊勢みやげ品に従った、いわゆる「笙の笛」であることは、ほとんど疑いないものと知れる。細部はともかく、横一本の笛であり、それなら零歳はともかく、一歳児でなんとか吹けよう。

▼ 笙の笛(『日本玩具集』)より

 

 

 

 

 

 

 

原型は「ヒョ−の笛」か
 では、雅楽の笙とは形状も音色もまるで違う横一本笛が、なぜ「笙の笛」と呼ばれてきたのだろう。これは大きな謎である。この謎を解くために、子守歌の「でんでん太鼓に笙の笛」の個所を、全国各地でほかにどのようにうたっているか、調べてみた。


でんでん太鼓に御所の笛 (宮崎市)
でんでん太鼓にジョーの笛 (高知県土佐清水市竜串・三崎浦)
でんでん太鼓に京の笛 (秋田県仙北郡西木村)(福島県会津地方)(福岡市博多地区)
でんでん太鼓に笙(ひよ)の笛 (新潟県)
でんでん太鼓に笛つづみ (岩手県)(鹿児島県熊毛郡屋久島楠川)
でんでん太鼓 笙神楽 (福島県会津地方)
でんでん太鼓 笛神楽 (福島県安達郡)
でんでん太鼓に鳴るつづみ (新潟県)
てんてに鼓はり太鼓 (高知県香美郡赤岡町)
てんてんつつみにしょうの笛 (熊本県球磨郡)
てんてん太鼓にはりつづみ 二尚知県)
てにてに太鼓に振り鼓 二局知県高岡郡東津野村)

......


太鼓(あるいはでんでん太鼓)と笛の擬声音を次のように表現した例もある。

太鼓にお笛にぴいぴいどん (愛知県春日井市寿町)
ぴいぴいにでんでん笙の笛 (神奈川県)
ピッピャガラガラ笙の笛 (石川県金沢市)(石川県江沼郡山中町)
ぴっぴにがらがら笙の笛 (石川県)

.....

 これらを通してみると、「でんでん」の代わりに「どんどん」「とんとん」「てんてん」「じぇんじぇん」「べんべん」「かんかん」など多様なうたい換えがある。また「笙の笛」も、「御所の笛」「ジョーの笛」「京の笛」「ひょの笛」などとうたい換えていることが知れる。ここから「でんでん太鼓」は、もともと幼児の玩具太鼓をさす普通名詞ではなくて、単に”でんでんと鳴る太鼓”の意味であり、その音色は人によって「てんてん」とか「べんべん」とも聴こえたのである。同様に「笙の笛」も、本来は”ショーと鳴る笛”という意味であり、「笙」は後世の当て字であった、と考えられる。
 ここで読者は”ショーと鳴る笛”とは奇妙に思われることだろう。横笛の擬声音は今日”ピー”とか”ピュー”など[P]音で表記するのが普通である。だが、昔は”ヒュー””ヒョー”など[hy]音で表した。...
 先の各地の例の中でただ一つ、新潟県の「でんでん太鼓に笙の笛」というのがあったが、振り仮名の「ひよ」は実は”ヒョー”の意味であり、これがこの歌の古形をとどめたものではあるまいか。つまり”デンデンと鳴る太鼓にヒョーと鳴る笛”という、玩具楽器二種の擬声音の対句だと考えたいのである。
 わずか一例しか現存しないものを過大評価しているように読者は思われるかもしれないが、この歌に関していえば、過去の採集・記録者の大半が、「笙の笛」という強い先入感で伝承者の歌に接してきたことに問題がある。伝承者の周囲の人たちもそうである。先の例のうち高知県竜串および三崎浦の「ジョーの笛」は、実はわたし自身の採集であるが、前者の伝承者(一九○五年生まれ、女性)が「ジョーの笛」とうたったとき、同席していた家族の人が「しょうの笛」の間違いだと抗議をした。わたしは「昔うたっていたとおりで結構です」といって、伝承者の歌唱を尊重した。だが、こんな場合、これまでの採集・記録者は「しょうの笛」の訛り、発音の不明瞭化、または誤唱と判断して「笙の笛」と記録するのが常ではなかったろうか。その昔「ひょうの笛」と伝承者がうたうケースが多かったにもかかわらず、それがなかなかそのとおりに記録されなかった、と思われるのである。
 この子守歌は別名『江戸子守歌』ともいうように、江戸を中心として全国に伝播した。その江戸では少なくとも江戸中期以来、「ヒ」を”シ”と訛る。「朝日の光」が”アサシノシカリ”になり、「潮干狩り」が”ヒヨシガリ”になる。そのように「ひょうの笛」が”ショウノフェ”になり、いわゆる雅楽の「さうの笛」の連想から、「笙の笛」の当て字がなされたものであろう。
 同様に「でんでん太鼓」も、本来デンデン(ドンドン)と鳴る太鼓の意味で、普通の小さな玩具太鼓をさして言ったものとも思えるのである。

以下省略  本文では なぜこの子守歌が全国的に流行したかが記されている。  興味の有る方は本を読んでください。


郷土玩具辞典 斎藤良輔編(東京堂出版) より

*笙の笛  玩具笛として江戸時代初期から登場した。浮世草子類にも散見してことに伊勢土産として知られる。昭和5年(1930)刊の『日本郷土玩具』西の部(武井武雄)には、「宇治山田の笙の笛として、幅六七分長さ二寸位の角型で、栗色飴色の縞模様をつけた極めて簡素なもの、日本の郷土的ハーモニカという様なものであった」とあり、明治期までこの種のものが売られていたことを記している。現在も笙の笛と称する竹笛が伊勢神宮参拝土産品にある(「伊勢の笙の笛』項参照)。


簫(しょう)、拝簫(はいしょう)説は

「雅楽への招待 押田良久著(共同通信社)」より

拝簫(はいしょう)=簫とも書く。竹の管を並べて固定させたもの。西暦前二十三世紀舜帝のときにすでにあった。ギリシャ神話の牧神パンが愛用した笛であったので、西欧ではパン・パイプといい、ルーマニアではナイ、アンデスの民族楽器シーク、エクアドルのロンダドールと広く分布されている。孔子廟のものは十六管よりなり、韓国も同数。日本には正倉院に残欠があったが、最近発見された副木からその全形がわかった。これを復元したものを使用するが、千二百年前のものと、現在使用のものとの間に外観上の相違がある。正倉院のものは十八管で、紙を湿らして管の中に入れてその位置で調律する。現在台湾で使用のものは調子笛のようになっている。

 里の土産にもらうほどがその時代に出回っていたのかというと、どうもそうではないらしい。上記の文によれば、正倉院に長い間封印されていた楽器のように見受けられる。


  SAMPEI さん という方から 【SAMPEI仮説】として

  「ショウの笛」とは、「篠の笛」。つまり「篠笛」じゃないのでしょうか?(「篠」という漢字を音読みすると、「ショウ」)
   
  「シノの笛」が、長年の伝承の間に訛って、「ショウの笛」になったのか‥‥。

という情報を頂きました。

上の「笙の笛」(日本玩具集)の挿し絵と「篠笛」を見比べると この仮説 大変おもしろいですね。


【ロバ説】 

 「笙の笛」なる玩具が実際あったのにはびっくりしました。 もしこの「伊勢みやげの竹笛」が「しょうの笛」ならばこの子守歌のイメージにぴったりです。

 しかし「伊勢みやげの竹笛」 がなぜ 「笙の笛」 なのか、どうもすっきりしません。

  「伊勢みやげの竹笛」 と雅楽の 「笙の笛」 は形が全然違います。  

笙吹きのロバとしては 「しょうの笛」 は 雅楽器の 「笙の笛」 であってほしいのです...

そこで、「伊勢みやげの竹笛」 は 雅楽器の 「笙」であった という説を 無理矢理たてました  (何の証拠もありませんが!!)

雅楽器の「笙」も竹を一本づつ分解すれば、単純な竹の一本笛となります。

それを屏上から上をちょん切り、指穴を閉じておいて、竹管の上の方から吹けば音が鳴ります。これだと、子供の玩具として十分使えます。

 下の図では竹管に根継ぎ部分がありますが、細い竹に、リードが付いていればよいのです。もちろんリードに「おもり」なぞ付いていなくても、青石を塗ってなくても、調律されてなくてもいいのです。またリードも青銅でなくても、リードの切り口に少々隙間があってもいいわけです。ようは共鳴さえすればいいのです。

  

       こんな「笙の笛」なる玩具が有ればいいのですが(要するに笙やハーモニカのようなリードを使ったおもちゃの笛)...

いつの頃からか、そのリードの部分も省略され、「伊勢のみやげ」 のようになってしまった??

 

宇治山田の笙の笛..日本の郷土的ハーモニカという様なものであった」(郷土玩具辞典)という文が気になります。

宇治山田: 「宇治」とつくので 京都の地名と思う方がいるかと思いますが、三重県の地名です。(伊勢神宮の門前町として古くから発展。1955年、伊勢市と改称された。)

子守歌にでてくる人物は伊勢神宮の要らなくなった古い笙を上記のようにして「里の土産」にもらったかも知れない....?

以上 ロバの愚説です。

 

「ロバ式笙の笛」を作ってみました。

細い竹にリードをロウで留めてあるだけの簡単な笛です。

リードがむき出しになっています。 この竹管より太い竹でキャップをつけるといいでしょう。

キャップには息の通る穴を開けておく。

 

この笛、笙と同じで吹いても吸っても音がでます。  1歳と3歳のチビ助でもちゃんと音が出ます。子供達も結構気に入っています。

しかし問題なのは、

寒くなってくるとりードに水滴が付き、鳴りにくくなる。(雅楽器の笙と同じだ)

小さな子供が口にくわえて歩き回るので、こけたとき非常に危険。

もっと工夫すれば子供に安全な笛ができるな。!

 

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