「ひよこの仇討ち」 苗(ミャオ)族
ある日、母鳥がひよこ達をつれてのんびり餌をたべていました。
そこへ野良猫が現れ、子供達の目の前で母鳥をさらってしまいました。
母鳥は最後に 「きっとお母さんの敵(かたき)を討っておくれよ!」 と子供達に言い残しました。
ひよこ達は悲しみの中、お母さんの仇(あだ)を討ちに行く相談をし、野良猫の住む家をめざして歩き始めました。
途中 縫い針が現れ、「おまえさん達 どこへ行くんだ」 とひよこに尋ねました。
ひよこ達は 「お母さんが 野良猫に食べられてしまったので、今から仇を討ちに行くんです」と説明しました。
それを聞いた縫い針が 「それなら俺も手助けをしてやろう」 と一緒に行くこととなりました。
しばらく行くと、今度は蟹が現れ、「おまえ達 いったいどこへ行くんだ」と聞くので、
ひよこは「お母さんの仇を討ちに行くんです」
と事のいきさつを説明しました。「そんなら おらも連れて行ってくれ」 と言い、一緒に行くこととなりました。
またしばらく行くと、今度は 牛の糞が 「おめーたち 大勢で どこさ行く?」 と聞くので ひよこたちは同じように説明すると
「そんなら おらも手助けするべー」 とついてきました。
又しばらく行くと今度は こん棒、 栗に出会い 同じように説明すると 「おら達も助太刀だ!」 と後に続きました。
こうして ひよこ、縫い針、蟹、牛の糞、こん棒、栗が 憎き野良猫の家に向かったのでした。
夜、野良猫の家に着くと、猫は寝ていました。
そこに縫い針が 「旅の者じゃが 疲れたから休ませてくれないか」 と野良猫を起こしました。
野良猫は起きるのがめんどうだから 「勝手に入って休んでくれ...むにゃむにゃ...」。
しめたとばかりに蟹、栗、牛の糞、こん棒が野良猫の家に入り、
蟹は水瓶に、栗はかまどに、牛の糞は敷居の所に、こん棒は出入り口の上にそれぞれ隠れました。
そこへ ひよこたちが 「疲れたので休ませてください」と 戸を開けました。
野良猫はひよこだとわかると起きて 「ひよこちゃんか 寒いから火をたいてやろう」 と言いながら
かまどの方へ行きました。
その時、栗が「ぱーん」と 爆(は)ぜりました。
野良猫は大慌てで目に入った灰を洗い流そうと水瓶の所へ行き、
水で目を洗おうとすると蟹が野良猫の手をぎゅっと挟みました。
びっくりし、腰掛けに座ろうとしたところ、縫い針が野良猫のお尻を「ブスッ」 と刺しました。
「ぎゃー」と悲鳴を上げた野良猫は「この家には化け物がいる!!」 と叫び、大慌てで外に出ようとしました。
しかし敷居の上にいた牛の糞を踏んづけて、すってんころり滑べってしまいました。
「いてーっ!」 と倒れた野良猫の上に、こん棒が落ちてきて猫を打ちのめしました。
それをひよこ達がつつきまわすと、野良猫は死んでしまいました。
こうして ひよこ達は無事母鳥の敵(かたき)を討つことができました。
おわり。
苗(ミャオ)族民間故事選「為媽媽報仇」 より
(上記文章は「為媽媽報仇」の翻訳文ではありません)
どうですかこの民話、日本の「さるかに合戦」にそっくりじゃないですか。
日本では、こん棒の役目をする臼(うす)、牛の糞の代わりに昆布、針の代わりに蜂というのが多い。
苗族以外にも 彝(イー)族の「小鶏救媽媽」(彝族民間故事選)は
野良猫にさらわれた母鳥をひよこたちが助けに行くという物語で
助太刀にくるのは ほうき、こん棒、縄、牛の糞。
瑤(ヤオ)族の「斬妖記」(瑤族民間故事選)では
「十嘴九鼻」という妖魔を村のある若者が退治しにいくというもので、
助太刀するのは青蛙、蜜蜂、蟹、唐辛子、こじゅ鶏(けい)、竹の皮である。
主な場面は
眠っている妖魔の鼻を蜜蜂が刺す。妖魔は目が覚め目をこする。
手のひらにいた唐辛子が汁を妖魔の目に注入する。
妖魔は飛び起き火をおこし何が起こったのか確かめようとする。
そこへ こじゅ鶏が翼をばたつかせ灰を妖魔の目に入れる。
目を洗おうと水瓶の所に行くと今度は蟹に挟まれる。
びっくりした妖魔は階段の方に行く、青蛙が階段の下に下りるようしむける。
妖魔は階段の竹の皮で滑って下に落ち、それを若者がとどめをさす。